静岡県藤枝市と静岡市の境にある宇津ノ谷へ行ってきました。今回歩いたのは、藤枝市岡部町にある「つたの細道公園」から始まる蔦の細道です。
宇津ノ谷といえば、旧東海道や明治宇津ノ谷隧道が知られていますが、それよりもさらに古い道として残されているのが蔦の細道です。『伊勢物語』にも登場する歴史のある道で、現在はハイキングコースとして紹介されています。
私も最初は、「昔の旅人が歩いた道を、のんびり歩いてみよう」というくらいの気持ちでした。ところが実際に歩いてみると、想像していた歴史散歩とはかなり違いました。
急な傾斜があり、苔の付いた石も多く、この日は何度も足を滑らせました。最終的には猫石まで進んだところで、この先へ一人で進むのはやめた方がいいと判断し、予定していた宇津ノ谷峠まで行かずに引き返しています。
今回は観光案内だけではなく、2026年9月に50代の私が実際に歩いて感じたことも含めて、つたの細道公園から猫石までを紹介します。
つたの細道公園から歩き始める

今回の出発地点にしたのが、藤枝市岡部町にある「つたの細道公園」です。蔦の細道の藤枝側入口に位置する公園で、園内には和風の橋や休憩施設などが整備されています。駐車場も用意されているため、藤枝側から蔦の細道を歩く場合には分かりやすいスタート地点です。
僕が訪れたときも、公園そのものは静かで穏やかな場所でした。山に囲まれ、木々の間からやわらかな光が入り、園内を歩いているだけなら「50代夫婦でゆっくり散策するのもいいな」と感じるような雰囲気です。
公園を抜けると少しずつ空気が変わる
この先に、あれほど急な道が待っているとは、この時点では思っていませんでした。
公園から山の方向へ進んでいくと、やがて蔦の細道の入口へ向かいます。整えられた公園の空気から、少しずつ山の中の古道へ入っていく感じに変わっていきます。
足元の土や石、木々の濃さ、聞こえてくる鳥の声。ほんの少し歩くだけでも、周囲の雰囲気が変わっていくのが分かります。
蔦の細道は『伊勢物語』にも登場する古い道

蔦の細道は、宇津ノ谷峠を越える道の中でも非常に古い歴史を持っています。静岡県の文化財資料によれば、この山並みを越える道は、少なくとも奈良時代には主要な道筋となっていたと推定されています。
また、平安時代の歌物語『伊勢物語』にも、宇津の山を越える道として登場します。
観光用につくられた道ではない
静岡市の「宇津ノ谷あるき」では、蔦の細道は平安時代から室町時代後期まで使われた官道だったと紹介されています。現在の静岡市側から宇津ノ谷の山へ入り、猫石などを経て藤枝市岡部町側へ抜けるルートです。
つまり、僕が歩いている道は、現代になって観光用につくられた散策路ではありません。はるか昔、人々が実際に山を越えるために使っていた古道です。
そう考えると、目の前の土の道や石も少し違って見えてきます。
ただ古いというだけではなく、ここを本当に人が歩いていた。そんな時間の積み重なりを、自分の足でたどっていく場所です。
最初は静かな山歩きだった

蔦の細道へ入ると、公園とは雰囲気が一変します。周囲を木々に囲まれ、聞こえてくるのは鳥の声や風で揺れる葉の音です。
国道1号を多くの車が走っている宇津ノ谷とは、まるで別の場所へ入ったような静けさがあります。
このときは、まだ「のんびり歩けそう」と思っていた
入口付近を歩いているときは、私もまだそれほど大変な道だとは感じていませんでした。
「こういう古道を真美と二人でゆっくり歩くのも面白そうだな」
そんなことを考えながら進んでいました。
人の声もほとんど聞こえず、木々の間を抜ける風と、自分の足音だけが残ります。こういう静けさは嫌いではありません。
ところが、少しずつ道の様子が変わってきました。
想像していた以上に傾斜が強かった

山の中へ入っていくと、傾斜がだんだん強くなってきました。写真や地図を見ているだけでは、この傾斜はなかなか分かりません。
実際にその場に立ってみると、「これは普通の散歩とは違うな」と感じました。
ハイキングに慣れているかどうかで印象は変わる
もちろん、普段から山歩きをしている方なら印象は違うと思います。
私の場合は、観光地を夫婦で歩くような感覚で来ていたため、予想以上の山道でした。
平坦な道を歩くのとは違い、一歩ずつ足の置き場を確認しながら登っていきます。途中で立ち止まって後ろを振り返ると、思っていたより登ってきたことに気づきます。
そして、傾斜以上に気になったのが足元でした。
苔の付いた石で何度も足を滑らせた

僕が訪れた日は、道にある石の表面に苔が付いているところが多くありました。
これがかなり滑ります。
見た目では普通に足を置けそうな石でも、体重をかけると靴が滑ることがあります。
2026年9月に歩いたときの実感
カメラを持ちながら歩いていたこともあり、慎重に進んでいたのですが、それでも途中で何度も足を滑らせ、転んでしまいました。
ここについては、「蔦の細道はいつでも滑りやすい」と言うつもりはありません。山道ですから、天候や季節、その日の路面状態によって歩きやすさは大きく変わるはずです。
ただ、少なくとも私が2026年9月に歩いた日は、50代夫婦で気軽に散策する場所として紹介するのは難しいと感じました。
滑りにくい靴を選ぶことはもちろんですが、雨の後など路面が湿っている日は、特に慎重に判断した方がよさそうです。
ノブさん見た目以上に滑る・・・無理に先へ行かない方がよさそうだな
50代になってからは、こうした判断を早めにすることも、旅を楽しむために大切だと思うようになりました。
「静か」というより、人の気配を感じなかった


さらに奥へ進むにつれて、もう一つ気になったことがあります。
人の気配がほとんどありませんでした。
私が歩いた時間帯には他のハイカーとは出会わず、確認できた範囲では、最近頻繁に人が歩いていると感じられるような明確な踏み跡も分からない場所がありました。
一人で歩くと、静けさの感じ方も変わる
もちろん、これは僕が訪れた時間と、その日に歩いた範囲での印象にすぎません。
それでも、一人でカメラを持って山の中へ入っていくと、「このまま進んで大丈夫かな」という気持ちが少しずつ強くなっていきました。
静かな場所を歩くのは好きですが、山の中では「静かで落ち着く」という感覚と、「人がいなくて心細い」という感覚は少し違います。
昔の『伊勢物語』でも、宇津の山へ入る道は、蔦や楓が茂る細く心細い道として描かれています。
千年以上前の旅人と同じというわけではありませんが、実際に歩いてみると、この場所が昔から簡単な道ではなかったことを少し想像できます。
山の中に突然現れる「猫石」


しばらく登っていくと、大きな石が現れました。
これが「猫石」です。
藤枝市の資料でも、猫石は蔦の細道を岡部側から登った場所に現存するものとして紹介され、昔から浮世絵や歌舞伎などにも登場してきたとされています。
ここで一度、足を止める
名前を知らなければ、山の中にある大きな石として通り過ぎてしまうかもしれません。
ところが「猫石」と聞いてから眺めると、不思議なもので、「どの角度から見ると猫なのだろう」と何度も見てしまいます。
山の中を歩いてきた途中に突然現れる大きな石です。
少し休憩するように、その場で立ち止まりました。
本来の予定では、猫石はゴールではありません。ここからさらに先へ進み、宇津ノ谷峠まで歩くつもりでした。
猫石で引き返すことにした


猫石まで来て、この先の道を確認しました。
ここまでに何度も足を滑らせていること。
苔の付いた石が多かったこと。
そして、一人で撮影しながら歩いていること。
いろいろ考えて、今回はここで引き返すことにしました。
「今日はここまで」と決める
せっかく来たのだから宇津ノ谷峠まで行きたい、という気持ちはもちろんありました。
ブログの記事にもしたい。
YouTubeの動画も撮りたい。
それでも、目的地まで行くことより、無事に駐車場へ戻ることの方が大切です。
50代になってから、こういう判断は以前より大切になったように思います。若いころなら、「せっかくここまで来たのだから」と、そのまま進んでいたかもしれません。
でも山の中では、行った分だけ戻らなければなりません。体力も必要ですし、下りでは登りとは違う危険もあります。
「今日はここまで」
そう決めて、猫石から来た道を戻りました。予定どおりに行けなかったというより、自分で安全な終点を決めた。
今は、そのくらいの考え方でいいと思っています。
50代夫婦で歩くなら、事前に道の状態を確認したい


今回の蔦の細道は、私が当初想像していた「50代夫婦でのんびり楽しむ歴史散歩」とは違いました。
これは蔦の細道そのものを否定する意味ではありません。
歴史のある古道を自分の足で歩く面白さがありますし、『伊勢物語』の時代から続く道を実際に体感できるという点では、とても興味深い場所です。
普通の観光遊歩道とは少し違う
ただ、一般的な観光地の遊歩道を歩くつもりで訪れる場所ではない、と僕は感じました。
特に50代以降で普段あまり山道を歩かない方なら、歩きやすく滑りにくい靴を選び、天候や路面状態を確認し、無理をしないことが大切です。
できれば一人より複数人で歩くことも考えたいところです。
そして、途中で「今日は危ない」と感じたら引き返す。
それで十分です。
歴史のある道だからといって、必ず峠まで歩かなければ、その価値が分からないわけではありません。
途中まで歩いて、その空気を感じるだけでも、古道らしさは伝わってきます。
つたの細道公園だけでも楽しめる


一方、つたの細道公園については印象がまったく違いました。
公園には休憩施設などが整備され、蔦の細道の歴史に触れる入口として立ち寄りやすい場所です。
山道を最後まで歩かなくても、公園を散策しながら宇津ノ谷の歴史を感じるという楽しみ方はできます。
まず入口まで行ってから決めてもいい
僕たちのような50代夫婦なら、「必ず峠まで歩く」と最初から決めてしまう必要もありません。
公園をゆっくり歩く。
木々を眺める。
蔦の細道の入口まで行ってみる。
そして、実際の道を自分の目で見てから、歩くかどうかを判断する。
それくらいの予定でもいいのではないでしょうか。
山へ入らなくても、公園の静けさや古道の入口に立つだけで、「この先に長い歴史のある道が続いているんだな」と感じることはできます。
実際に歩いて初めて分かった蔦の細道


今回、僕は宇津ノ谷峠までたどり着けませんでした。
つたの細道公園から歩き始め、蔦の細道へ入り、猫石まで。そこで安全を優先して引き返しました。
予定どおりにはいかなかった撮影です。
それでも、実際に歩いたからこそ分かったことがありました。
地図では分からないものがある
地図に書かれた距離だけでは、坂の傾斜は分かりません。観光案内に「ハイキングコース」と書かれていても、その日の路面状態や自分の体力によって感じ方は違います。
そして、歴史のある道だからといって、必ず最後まで歩かなければならないわけでもありません。
途中で立ち止まり、風の音を聞く。
木々の間から差し込む光を見る。
少し息を整えて、来た道を振り返る。
今回の僕にとっては、峠までたどり着くことより、そうした時間の方が強く残りました。
宇津ノ谷には、蔦の細道だけでなく、旧東海道の峠道、宇津ノ谷集落、そして明治宇津ノ谷隧道など、時代の異なる道の歴史が残されています。
今回は、その中でも最も古い歴史を持つ蔦の細道を、猫石まで歩いてみました。
そして次は、宇津ノ谷の集落と赤レンガの明治宇津ノ谷隧道へ。同じ宇津ノ谷でも、歩く道が違うだけで、見える景色も感じ方も大きく変わります。
50代夫婦で静岡を巡っていると、予定どおりにいかない日もあります。
でも、無理をせず、その日の自分たちに合ったところまで歩く。
そして、実際に自分たちの目で見て、足で歩き、感じたことを残していく。
若いころとは少し違う旅ですが、今はそんな歩き方も悪くないと思っています。
これからも、真美と二人で無理をせず、静岡の道を一つずつ歩いてみたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。








